世界トップクラスのタイヤメーカーのひとつとして数えられるブリヂストン。腕時計の部品から完成品の組み立てまで自社で一貫製造しているマニュファクチュールのシチズン時計。家電や鉄道などのインフラ、都市開発など幅広い事業展開をしている日立製作所。3社はプロダクトの大きさや素材、機能、形状だけでなく、事業規模やBtoCまたはBtoBなど多くの点で異なります。そのため、まずはミュージアムやプロダクトの展示を相互に見学し、事業やデザイン活動などの紹介を行いました。また、参加者によるワークショップも実施し、それぞれの個性や魅力に触れることで多くの学びを得ることができました。
例えば、ブリヂストンイノベーションギャラリーでは、スポーツカーや商業用トラック向けの幅広い種類のタイヤを拝見しました。それぞれの使用用途に最適なトレッドパターンやゴム素材などを日々研究しているそうです。クリーンルームや工場内などで使われるフォークリフトの白タイヤはタイヤ痕が目立ちにくいなどのノウハウの詰まった情報も教えて頂きました。特に興味深かったのは、デザイン開発におけるトレッドパターンとサイドウォールの違いです。トレッドパターンは機能や性能を重視してデザインされ、サイドウォールはブランドやコミュニケーションも考慮してデザインされているそうです。ひとつのタイヤブランドでタイヤのサイズは100 種を超えることもあるようで、全てのサイズで同じデザインイメージの統一性を保つために様々なアプローチが検討されていることも分かりました。
シチズン時計では、シチズンらしさの探求を目的としたプロジェクトについてやデザインフィロソフィー、ブランドの歴史などを紹介しました。自分のお気に入りの腕時計について語り合うという一風変わったワークショップも行い、プロダクトへの愛着を深めるプロセスを探りました。ミュージアムに所蔵されている珍しい時計や最新モデルを実際に手に取ってご覧いたくことで、腕時計に対する興味を持っていただけたのではないかと思います。
日立製作所のプレゼンでは、事業内容や目指す姿、デザインアプローチなどを垣間見ることができました。腕時計という単一のプロダクトを突き詰めるデザインとは全く違う内容もありましたが、同時に共通した試みや考え方も見受けられ、非常に興味深かったです。特に、「きざし」という未来洞察手法についての説明の中で紹介された「関与の後押し」という考え方がユニークです。作り手が意図的に余白を残すことで、ユーザーがそれぞれにあった使い方や価値を創造し、自らが手を加えることで唯一のものとなるという考え方です。このような考え方は、今後のデザインにおいて重要なヒントとなる可能性があると思いました。
三多摩プロジェクトにおいて、具体的に何を生み出せるのかはまだ分かりませんが、期待値の高いプロジェクトだと感じています。異なる分野であってもインハウスデザイナーとして私たちは共通の悩みや課題を抱え、日々格闘しています。毎日の業務に追われるだけでなく、社外の方々との交流を通して、自分たちの仕事を客観的に見ることの重要性を再認識することができ、得難い経験となりました。
※社名は開催順で統一