左:ペルラージュ加工の様子 右:保護メッキ付きの構成部品
センター2針スモールセコンドというクラシカルな表示スタイルと、先進性というシチズンのイメージとの両立に悩み検討を重ねました。その結果、開発者の「時計の原点に則す」の思想を外装にも受け継ぎ、「外装の精度を直感的に感じさせる造形」を表現するというデザインコンセプトに至りました。形状は奇抜さを狙うのではなく無駄な線は徹底して排除した造形を心掛けています。
復刻ではない
ラグを省いたケースは一見すると70年代のクォーツウオッチを彷彿とさせますが、決してデザインの復刻ではありません。当時と共通のテーマ「シチズンの先進性やチャレンジ精神の象徴」を求めた結果たどり着いたものです。言い換えれば時間の精度の高さを視覚的に表現するうえで当時のデザイナーと同じような発想の手順を踏んだ結果と言えます。
一体感のあるケースとブレスレットは精度の高い切削加工により、鏡面仕上げとヘアライン仕上げを組み合わせています。ステンレス材の硬質感が感じられる鮮明な反射光/陰影は、まるでハイビジョン画像を観た時のような感覚を与えます。70年代モデル(右)と比較すると、ケースとバンドの連結部分(赤枠)の一体感とシャープな仕上がりは復刻とは異なるデザインアプローチを感じて頂けると思います。
視覚的効果の重要性
腕時計は実寸法ではなく「どう見えるか/感じられるか」が重要だと私は思います。例えばケース側面の上下斜面の角度を調整し、立ち上がり面の幅を狭く設定することによって、実寸法より薄く感じさせています。ケースのアウトラインとバンドのアウトラインとの一体感については3Dモデリングにて「装着時にどう見えるか=斜めから見た時の美しさ」について何度もシミュレーションし確認しました。このモデルに携わり、形状や質感の細かなバランスというものは実際に目で見ることが重要だとあらためて痛感しました。上:修正前 下:修正後
ケース側面の上下の斜面角度を変更し、立ち上がり面[A]の幅を狭く設定することで同寸法ながらケースを薄く見せています。またケース先端[B]に鏡面仕上げの斜面を設けることにより、バンドの斜面[C]との一体感を強めています。
文字板の表現
文字板のデザインは時計の要だと私は思います。目にする機会が最も多い構成部品だからです。故に外装の精度を視覚的に感じさせた造形の緊張感を、どう文字板に落とし込むか慎重に検証しながら進めました。インデックスや印刷は長さ/幅/サイズの検討を重ね、メーターのように高い精度を想起させるレイアウトを心掛けました。ベースとなる文字板面には自然美をモチーフに見立てた模様を採用し、ケースやバンドなど寸法管理された人工的な美しさの中に偶然性をはらんだ自然美を融合させ、心地よいコントラストを表現しました。どこまでも続く穏やかかつ雄大な雲海。自然が創り出す白のマチエール
自然界が生み出す偶発的な砂地模様。凹凸の陰影が生み出すモノトーンの美しさ
鏡面のように張り詰めた水面。静けさと映り込み
時刻を示す
「時刻を読み取る」という繰り返し行われる行為にストレスを感じさせないよう心掛けました。時分針の仕上げは鏡面部分をV字として針のシャープさを強調し、平面部分をヘアライン仕上にすることで鏡面反射によるブラックアウト現象を抑え、どの角度からでも針先が読み取れるよう対応しました。「象徴」となるスモールセコンド表示を担う針は細く長く設定し,運針の様は「時を刻む生命感」を感じさせます。
満足感の持続
機械式腕時計が実用性だけでなく、自己主張や承認欲求を満たすと感じられるのは、宝石のような美しさが腕元を飾るという優越感や、多数の部品で構成された機械が自身の手の動きにより動作することで相棒のような愛着が生まれるからだと思います。見た目の重厚感と手首に馴染む自然な着け心地とバランス。装着時に感じる満足感を持続させ、新たな満足感を発見できるようタイムレスかつエイジレスなデザインを纏った「日常の最高級」を目指しました。