具体的なスタイリングに関しては、直線と曲線をバランスさせたシャープな面からなるケースが特徴です。初代のコンセプトを継承しつつも造形的な構成要素を引き算し、よりモダンな印象に仕立てました。また、デザイナーの間で良く用いられる言葉である「カタマリ感」も意識しています。「カタマリ感」とは、その名の通り「塊」、つまり時計の場合は、金属のブロックから面を削ぎ落として構成したような立体としての凝縮感を指しています。シャープでありつつも軽すぎない、腕に載せた時の重量感にふさわしいフォルムが、このモデルの魅力の一つだと思っています。
ブランドのアイコンとなる要素を作る。
名称こそシリーズエイト というブランド名を継承していますが、単なる旧シリーズの復活ではなく、現代にふさわしい機械式時計を新しく作ることを目的として企画がスタートしています。ブランドの顔となるモデルを作るにあたり、アイコニックな造形をどこかに組み込むという事は初期段階から意識していました。一目でそれとわかる、しかし主張しすぎない造形とは何か。これを考えるのに時間を費やしています。最終的にはベゼルに分割構造を採用し、力強さと精密感を両立する形状としています。
部品を分割する事の大きなメリットの一つとして、色調や仕上げの幅が広がることが挙げられます。これにより、ミラーとヘアラインの描き分けやメッキ色の変更によるカラーバリエーションが作りやすくなり、モデル展開における奥行きが広がります。上下対象に「U」の字が向かい合う形状は、U 字磁石をイメージしています。これは、このモデルが搭載するムーブメントに耐磁性能があることに由来しています。
りゅうずはシリーズエイト の為に新規で設計されています。巻き上げやすいように径を大きく、ゼンマイの感触が指先に伝わるように丈を短くしているのがポイントです。正面はブランドロゴ等が入ることが多いですが、あえて余計な要素を削ぎ落とし、フラット面にサークルヘアラインのみを施す事でソリッドな質感を強調しています。
バンド・ケースにおけるヘアライン仕上げの粗さについても、複数のサンプルを作成して検討しています。金属が持つ「らしさ」の一つとして、切削加工を施した後のツールマーク( 切削痕)が挙げられると思います。これに通ずる表現として、通常よりも番手の粗いへアライン仕上げを採用しました。粗くしすぎるとエッジがたちすぎてしまうので、肌に触れても不快でない程度に調整しています。
モダン( 現代的) であるということ。
デザインの方向性として、「モダン( 現代的)」というキーワードは企画段階からよく耳にしていました。人によって何がモダンと感じるかはそれぞれ違うので、造形言語としてどのように翻訳してカタチに落とし込むのかが悩みどころであり、仕事としてのウェイトが高かったと感じます。現代的であるという事は少なからずその時のトレンドを取り入れるという事であり、トレンドを取り入れる以上、時が経てば古臭く見えることは宿命です。しかし、ファッションが20 年周期でリバイバルを起こすと言われているのと同様、流行が「一周」した時にこの時計がどのように見えるか楽しみです。適切な使い方をすれば朽ち果てることの無い機械式時計だからこその楽しみと言えるでしょう。