そのものがパワーストーン のような存在感
1973 年8月、先に発売されていたシチズン初のクオーツ時計Cal.8810の精度を、月差±10 秒から±5 秒以内に特別調整し、10月に特別な仕様にて発売した商品。クオーツという技術がまだ目新しかった頃の、自社の技術を最高の装いで世に出したいという当時の技術者やデザイナーの気概を感じるモデルです。 ケースには当時の主流である切削加工を大胆に施し、文字板素材には紫金石を使用。時字にはカットしたルビーを三ヶ所に配置しています。 黒っぽく艶めく文字板に浮かぶゴールドの針やルビーの時字という組合せもあいまって、このモデル全体から、ちょっとした自己顕示欲のような、当時この時計を所有していた人たちに特別な自信を持たせてくれたであろうパワーを感じることができます。
目で見ても、手で触れても 可読性のよい文字板
数ある腕時計の中でも、「文字板と針に直接触れて時を読み取る」ことを前提として設計されたものはこのような視覚障がい者対応のものに限られます。各パーツの造形や仕様には「触れられるパーツである」ことへの細かな配慮がされています。 時計全体のデザインはシンプルでありモダン。開閉可能なベゼル部分には球面ボックスガラスが備わっており、手に触れたとき、そのふっくらした形状が温もりと安心感を与えてくれます。 ふたを開け、文字板の上を直接指で触れてみると、まずその針の存在感に驚かされます。多少強めに触れても位置ズレの起きない丈夫なステンレス製の針には、根元から先端までしっかりとした立体感があり、指で触れた瞬間にその位置を容易に読み取ることができます。 時字も、ひとつひとつ上面を円錐で形状出しをしていますが、指の腹で触ってみても一切の尖りを感じません。その形状も点字から発想を得たであろうと思われます。樹脂塗装された文字板はこちらもガラス同様にふっくらとした形状のため文字板表面の触り心地がよく、いつまでも触っていたいような気持ちになります。 この時計を必要とする人々への設計者たちの「寄り添い」を深く感じることのできるモデルです。
「測る」という機能を際立たせて無駄を省いたシンプルさ
1967 年から5 年間ほど製造された、クロノグラフ機構を持つ中三針手巻き腕時計。当時の広告資料を見ると、若い世代に向けた商品として発売されたようです。 時計は手巻から自動巻へと変化する只中にあり、自動巻クロノグラフもレコードマスター発売の2 年後には他社から発売されました。 製造されていたのは短い期間ではあったようですが、正統派のモデルであり、細部まで配慮の行き届いた繊細なつくりの美しさが印象的です。