腕時計本来の役割
腕時計は文字通り“時”を刻むもの。本モデルはその“時”をいかに見やすく、いかに美しく魅せるかに注力しています。針や時字の形状・仕上げ、大きくて見易い日表示はもちろん、ケースやベゼルは複数の面が効果的に組み合わさっていて、光の反射によって、あらゆる角度から見ても美しい仕上がりになっています。 中3 針の場合、単調になりがちな“顔”も、10時位置に配した“充電量表示”がポイントとなり個性を表現しています。 裏ぶたの象徴的なエンブレムは、持つ人に満足感を抱かせる演出で、ケースのサイズやラグの落とし方は、とても腕なじみが良く、ザ・シチズンの名に恥じない腕時計本来の役割を果たすデザイン。 端整で上品。かつ高級感あふれる1 本に仕上げられています。
POWER IN THE GLASS
VITROとは、ラテン語で「ガラスの中」を意味します。この「ガラス」は完全に透明であるように見えますが、実際には我々人間には目視することのできない程の微細な線上に形成された半導体が配置されています。つまり、この「ガラス」は透明なソーラーセルなのです。 透明性を強調するため、トランスパレントケースバックが採用されており、ケースの向こうを透かして見ることが出来ます。レディスモデルの限られた空間の中に、複数の層を構成する、挑戦的なアイディアです。 シチズンのプロダクトにおける技術と美の結びつきは、とても密接で強力なものです。この技術と美の相関関係をよく学ぶことで、人々に驚きを与えうる、新しい何らかの表現に挑戦しようと常に試みているのがデザイナーであり、このガラスの中のソーラーセルは、前へと進む足跡の一つとなりました。そしてこの先に待つ未来を、私たちはいつも想像しています。
ベースデザインの構築
このモデルは、それまでの主流であった航空計算尺を回転ベゼルに配置するデザインを踏襲することなく、回転リングをケース内に取り込み、極力外装はシンプルにまとめられています。このデザインはその後のプロマスターのパイロット電波時計のベースとなって、長く継承されることとなりました。 電波時計の受信機能表示を秒針の「尾」の部分にて表示する手法も、エコ・ドライブの文字板において2 枚の文字板を貼り合わせて見切りの大きい文字板デザインを試みたのも、この商品が初めてでした。今では当たり前のように設定している設計手法もこのモデルの存在があればこそです。 計算尺・切分など要素が多く煩雑になりやすい文字板も、12 時と6 時位置に配置されたアラビア数字の時字により時刻が分かりやすいデザインにまとめあげています。 無駄の無い、そぎ落とされた機能美を表現したケースデザイン。視認性・精密感を巧みに表現した文字板デザイン。それらをMRK 処理を施したチタニウム外装と、エコ・ドライブ機能と電波時計の機能を合わせることで、軽く、傷つきにくく、止まらず、狂わない、という実用性の部分でユーザーに寄り添っています。 技術をデザインの力で見事に昇華させた1 本であり、シチズンのデザインに与えた影響は実に大きいと言えます。
要素の表現
このモデルの中心にあるものは、特殊性のある“多機能”という“要素”だと思います。 “要素”をデザインの観点からどのように表現することができたか。それがこの腕時計の持つ完成度に表れていると思います。 充電量表示を扇表示にし、その中心部を12 時時字として機能させるといった構成は特異であり、このモデルがもつ魅力のひとつです。同時に、多くの要素がお互いに干渉しあわないよう文字板、リング上にレイヤー、面構成により配置される工夫が施されています。 “スポーツ”という言葉を表層的にカタチとして表現するのではなく、使用状況を想定し必要以上に凹凸構成をしないなどといった作りこみもなされています。 メタルバンドには、連結駒にミラー仕上げの交互使いが施され、躍動感のある個性が演出されています。また、りゅうずとプッシュボタンガードを別体で仕上げ違いにすることで特徴づけ、プッシュボタンの形状とともにクロノグラフの機能を使いたくなるような仕掛けがなされています。 “機能”“スポーツ”という“要素”を本質を見据えて構成、表現したデザインが大きな魅力としてあらわれた、プロマスターらしいモデルとなっています。
新素材の表現
腕時計の素材として、ステンレスが主流であった70 年代。この「特殊軽合金」による「黒い」外装はかなりセンセーショナルに市場に登場しました。こうした新素材への取り組みを他社に先駆けて行うのは、現在へと続くシチズンのものづくりの姿勢と言えます。 「この新素材をいかに美しく表現するか」という視点でこのモデルを見ると、非常に上手くまとめられています。円錐形状によって造形されたベゼルの無いモダンな造形。ケース側面部分も垂直面ではなく、ケース内側方向へ傾斜させた斜面によって造形することで、円錐面との稜線がモダンな造形にあっても無機質にならずに正面や側面など、どこから見ても表情のあるキャラクターラインを生み出しています。ケース裏斜面も高めの位置に稜線を設定することで、ケースの厚みを感じさせない、互いの稜線が良いバランスになるよう に配慮されています。 ケース、バンド、文字板と主たる構成部品が全て「黒」によって構成される中、見返し部分のリングパーツの鏡面仕上げによるシルバーカラーは非常に良いアクセントになっており、全体を引き締めています。また時字や針に施された発色の良い「オレンジ」によって非常に新鮮なカラー表現がなされていて、ケースの新素材によるモダン表現と相まってこのモデルの印象をより強いものと しています。
印象的なフェイス
ウインドサーフィンやヨット(小型艇)レースに特化したタイマー機能を持っているのがこのモデルの大きな特徴です。開発には実際にヨットレースに参加経験のあるデザイナーが携わり、より使いやすく、見やすくすることに主眼を置いています。 デジタル表示で、レース中に最も知りたい経過“秒”を1番大きく、6 時位置に表示するようになっています。また経過時間をよりグラフィカルに、当時の自動車のパネルデザインに見られるデザインを取り込み、判別しやすさと、時代性を絶妙に取り入れた表現となっています。結果、このフェイスデザインは非常に個性的な表現となって、一目見たら忘れられない商品となりました。 「ヨットタイマー」という新たなカテゴリーをいかに「使いやすく」、「個性的」な商品として発売するかという点において、この非常にインパクトのあるデザイン功を奏しているは間違いありません。
指でなぞるという事
時計を上から見るとわかりますが、ケース、バンドがフルフローのデザインでまとまっており、バンドのラインが滑らかにケースのラインへと繋がっています。いわゆる4 本足のケースではなく、メタルバンド専用のケースです。このことにより、流れるような表現が可能となっています。 ケース、バンドがそれぞれ違う趣で個性を主張するのではなく、一体となって一つの外装としての個性を表現しています。ベゼルも細縁で、あえて装飾は施していません。ゆえに文字板の情報を最大限伝えることが出来ています。また、時計を横から見た時にも流れるようなラインで構成されていることがわかります。ベゼルの高さも抑えられており、大きな段差もないため流れを遮っていません。 ケース、バンドの3 時- 9 時断面はなだらかな山形状となっています。バンドに関しては中駒を一段低くすることにより、厚さを感じさせません。このような形状により、視覚的にも物理的にも腕への高い装着感が実現できています。 このデザインの持つ滑らかな繋がり。時々表面を指でなぞってその抵抗のなさを楽しみたくなります。“時計を身に着けるとはどういうことか”という問いかけに対する一つの答えがここにあります。